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住戸設計者インタビュー 松野尾 仁美さん

コーポラティブハウスの魅力的なメリットのひとつに「自由設計」があげられます。一戸ごとに担当の設計者がつき、組合員(入居者)の要望をとりいれ、理想のすまいをつくっていくのです。
こちらでは住戸設計者のご紹介をすると共に、過去の住宅設計において、施主の要望をどう活かしたか、実例をご案内します。
 
住戸設計者 PROFILE #03
松野尾 仁美さん
YOSHIMI MATSUNOO

CAMELC
[一級建築士・インテリアコーディネーター]

主な設計プロフィール
ハウスメーカー研究所をへて、独立。 研究所では、住宅性能に関する研究、開発を行い、 ヘルメットに作業服で実験の日々でした。 独立後は戸建て住宅、バリアフリー改修、 保育園改修の設計監理を行っています。

設計の仕事をしてる理由、はじめた理由
高校生の時に、自分の将来について考えた際、「技術の裏付けがあり、かつ感性を活かせる職」につきたいと思ったのがきっかけです。

休日のすごしかた
子どもと一緒に図書館や少年科学文化会館に行っています。

趣味
猫を腹にのせながら読書。
 
過去手がけた住宅のご紹介
住宅 M邸
構造規模/
  混構造(1、2階木造、地階RC造)地下1階、木造地上2階
専有面積/151u
間取り/
  地階(仕事部屋+主寝室+納戸)
  1F(LDK+洗面+脱衣+浴室+トイレ+納戸+玄関)
  2F(子供室2+スタディコーナー+トイレ)
家族構成/
  夫婦(30代)+子供3人(男:児童+男:幼児+女:乳児)
入居者のこだわりや要望
予算2500万円程度
採光をなるべくとりいれ、明るい家
通風(24時間換気システムなども可)
断熱をしっかりして、冷暖房の効率をよくする
部屋は細かく仕切らずに広々とした空間
曲線が好き
掃除しやすい素材、造りになっていること

実はこの家のオーナーは私の友人です。「家を建替たいのだけど・・・」とある日連絡があり、相談に乗ることになりました。おすまいになるのは30代の共働きのご夫婦で、小さいお子さんが3人います。「いかに効率よく生活できるか」がポイントになってきます。具体的な要望もたくさんあったのでそれをどう取り入れていくかが難しい点でした。

>> 「間取り図」

玄関
南側、靴がたくさん収納できること
帰宅後、上着を掛けたり部屋着に着替えたりできる
  クローゼットが欲しい

玄関から入ってすぐの所に広いウォークインクローゼットを配しています。ここはリビングから入ることもできて便利です。かつ独立しているのでリビングから見える心配もありません。玄関を広く取って靴の収納だなをずらっと並べるより、まとめてスペースをとることでその他の収納もまとめて収め、すっきりとした生活ができると提案しました。もちろん帰宅後の着替えもここで済ませます。


キッチン
対面式
シンクの上はオープンに
  (吊戸収納は圧迫感があり、嫌いなので吊戸等は不必要)
収納力のある造り付けの棚がほしい
キッチンからゴミをだしたり、洗濯物を干すなど、
  効率よく動ける動線

キッチンはすべてオリジナルの設計になりました。
コンロなどはお掃除がしやすいIHヒーターを採用しました。



L字型の大きなキッチンカウンターの一辺サイズも約4m、奥行きは1m10cmと、とても大きくとりました。配膳や注ぎ分けるときにも十分な広さです。上部吊戸棚などは一切つけていませんが、カウンター下はほぼ全部、引き出し式の収納になっており、十分物を入れることができます。カウンターの逆サイド、ダイニング側にも収納を設け、ここには通常使う食器を片付けます。食事どきのセットアップはお子さんのお手伝いにされているそうです。

また、キッチンは北側です。明るさを確保するために東側に窓と、天井にトップライト(天窓)を配しました。

動線ですが、効率よく家事ができるように、キッチンと浴室、洗濯機を置いている脱衣所、トイレ、洗面所といった水周りの位置を固めました。
ゴミは洗面室横の扉からだせるようになっています。

洗濯物を干す場所ですが、「北側か西側に設け、動線をコンパクトにする」か、「日当りのよい南側にする」かは最後まで決まりませんでした。最終的には、「お日様のにおいのする洗濯物がいいね」という奥様のひとことで、デッキという形で南側に設けることに。洗濯物を干すときはリビングを通っての動線になりますが、ご理解いただきました。


リビング・ダイニング
できるだけ広くゆったりとりたい
ダイニングの近くに、生活に使うこまごましたもの
  (例えば爪切りなど)の収納が欲しい

広く空間を取るために間仕切りや背の高い作り付けの家具などは一切ありません。視覚的に広がりがでるようにキッチンからダイニング、リビング、ドライエリアと、一直線に空間をとりました。かつ、リビングの天井は吹抜で空間の広がりをだしています。また、リビングからはデッキに出ることができます。

 
仕切りがなく、トップライト(天窓)、吹抜、南側の開口をたっぷりとったすまいはとても明るいそうです。また、仕切りの少ないすまいはお掃除の面でも管理がしやすいというメリットもあります。

こまごました物の収納には、キッチンのカウンターのダイニング側に引出しを設けました。
また、少しかさばるものは、リビングに平行して配しているウォークインクローゼットに収まるようにし、表に物を出さずにすっきりとした生活できるよう配慮しました。


洗面室・浴室
タオルや下着の収納が欲しい
浴室乾燥機
浴室はゆったりとりたい
  (入浴しながら坪庭が見れたらなお良し)
 
ご夫婦とも共働きなので、洗面室は独立させて、朝忙しいときでも2人並んで使えるスペースをとり、2つボールがある洗面台にしました。また、洗面台は不必要な突起などが出ていないシンプルなデザイン。お掃除も手軽にでき、かつおしゃれなデザインのものを採用。鮮やかなイエローが暗くなりがちな洗面室を明るくしています。前面のガラスは一面張りで、空間を広く見せています。

浴室には窓を設け、湯船に入りながら外が見れます。


トイレ
手洗いはカウンタータイプ
位置は玄関の横以外

位置はダイニングから行きやすく、洗面室の近くに。子供が小さいときは近いほうがなにかと便利です。


収納
掃除機、アイロン、古新聞、買い置きのティッシュなど
  収納可なこと

リビングに平行して配したウォークインクローゼットにすべて収まるように
十分なスペースをとりました。リビングでつかうけれど生活感がでる物、ストック、急なお客様がきたときに何かと片付けられるスペースです。


主寝室
3竿のタンスがすっぽり収まるクローゼットが欲しい
  (将来タンスを処分したら、内部を仕切って使えるような
  収納スペース)
オフシーズンの衣類が収納できるクローゼット

主寝室の壁一面にタンスがぴっちり収まるスペースを設けました。
各居室とも空間を広く取って、柔軟に活用できるようにしています。


仕事部屋
机を2つ、本棚、パソコン、テレビ、ステレオ
防音壁

仕事を家に持ち帰ることも多く、夜遅かったり、朝早かったりするため、独立した仕事部屋が必要とのこと。音楽の編集などもするので、部屋は地階が都合がよく、主寝室の隣に配しました。机を置いた壁の反対側の壁面全体に作り付けの本棚を設け、本やステレオをおけるようにしました。


子供室
12畳位の和室、(壁、天井は洋風に)
6畳の洋室
リビングを通らなければ子供室にいけないような配置

2階に2部屋、子供室を設けました。リビングの螺旋階段を上がらないと2階にあがれません。お子さんが小さいときは、大きな部屋に置畳をおき、家族全員、布団で寝ます。また、この部屋は将来区切って2つの居室にできます。窓際のカウンターは開き戸をはずして作りつけの机のように使うこともできます。

また、螺旋階段を上がったスペースにスタディコーナーを設置しました。
お子さんが小さいときはまとめて勉強がみれるようにつくったこのスペース、すぐ隣の窓は、宝満山がくっきりと絵のように見えるなど、なかなか快適なスペースになっているそうです。


バルコニー
南側に布団が干せるように
手動でルーフが出せたりと、天気に左右されにくければなお良し

デッキを南側に設計しました。通りに面していますが、腰の高さまでの手すりが目隠しになるため、洗濯物が直接見えることはありません。このデッキにはリビングから出ることができます。リビングの窓には軒をつくり、雨が直接リビングの窓ガラスにかからないように配慮しました。

その他
玄関、トイレは鬼門を避けたい
自転車、タイヤ、カーシート、工具類などが収納でき、
  外から出入りできる納屋が欲しい

北東が鬼門になるので、玄関を西に、トイレを北西に配しました。
大きなものをしまう納屋は別棟でつくるスペースはありませんでしたが、1Fの床レベルを上げ、その床下部分を配管、メンテナンススペース+収納としました。タイヤ、工具類などを入れてあるそうです。
自転車は西側の勝手口近くにゴミ置き場とからめて、駐輪スペースをつくりました。



この他、いろいろな要望や提案をとりいれました。
例えば屋内でいうと、24時間換気システムを導入して、共働きで家を締め切ることが多くても、空気が循環するつくりにしたことや、床暖房の採用などです。
屋外なら、外壁をメンテナンスがあまりいらない素材にし、断熱材を厚く入れ、熱効率がいいようにつくったこと(通常の木造の建物の約4倍の断熱材をいれました)などです。


設計で苦労した所や工夫した点など
上記でも紹介したように、要望がはっきりあるご家族だったので提案もしやすかったです。一番苦労したのはお金の面で、当初の予算よりはだいぶUPしました。その中で譲れないことを見定め、優先順位が低いことや、後から取りつけられるものはあきらめていただき、また、材料やつくり方を変更していくことで金額のすりあわせをしました。
内容を施主に説明し、内容を理解したうえで決めたことは、後悔がありません。そういった意味でも納得できるすまいができたのです。

 
住宅にかかわる仕事について
コーポラティブハウスの住戸設計をするにあたって
大学の時、コーポラティブハウスのシュミレーションの実習がありました。それは、コーポラティブハウスに住みたい、(または住宅に関してすごく関心の高い)一般の方から要望や生活のスタイルを聞き図面をおこす、というものでした。実習は、その多種多様な要望と集合住宅という規制との収まりをつけるのがとても大変でしたので、コーポラティブハウスというのは
「個性的で住宅に対してのこだわりが強い人が集まるすまい」だという認識を持ったのです。
福岡では事例が少ないコーポラティブハウスですが、住宅にこだわりのある方々が満足いくすまいを共につくることに挑戦したいと思い、住戸設計の仕事を引き受けました。

戸建てと集合住宅の違い
私は、「人と集まって住む」ことは理想的な住まい方のひとつだと思います。また、住む人それぞれの「ライフスタイルを反映したすまい」も必要です。それを同時にかなえる可能性があるのがコーポラティブハウスだと私は考えています。
日本では現在のようなマンション形式で集まって住む歴史が浅く、集まって住むが故のトラブルも多くみられます。それは音の問題だったりマナーの問題だったりと、いろいろありますが、住人ひとりひとりが「人と集まって住む」ということに対する意識を変えていくことによって、そういう問題は解決していくのでは、と思います。

理想のすまいとは
住宅は「住む人そのもの」だと私は思います。
人間にはその人特有のオーラを発しているといわれます。目には見えないけれど自分の領域があるのです。例えばそれが具体化したもの、それがその人のすまいだと思うのです。ただし、すまいは自分とともに動いたりはしませんから、帰宅した際に本当に居心地がよくてほっとする、懐にくるまれるような感覚がもてる、そんなすまいがいいと思います。

いいすまいを得るためのアドバイス
自分自身をはっきりさせることが大切です。気力と体力、決断力が必要になりますが、希望も含めてなにがしたいかあいまいにせず、考えて見極めることが、いいすまいを得るための近道です。

設計者とは
みなさんの「生活のお手伝いをする人」だと考えています。どうしたら楽しく暮らせるかを提案することが仕事です。

 

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