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住戸設計者インタビュー 信濃 康博さん

コーポラティブハウスの魅力的なメリットのひとつに「自由設計」があげられます。一戸ごとに担当の設計者がつき、組合員(入居者)の要望をとりいれ、理想のすまいをつくっていくのです。
こちらでは住戸設計者のご紹介をすると共に、過去の住宅設計において、施主の要望をどう活かしたか、実例をご案内します。
 
住戸設計者 PROFILE #05
信濃 康博さん
YASUHIRO SHINANO

信濃設計研究所
[一級建築士]
http://home10.highway.ne.jp/nano/

主な設計プロフィール
住宅、別荘、テナントビル、本社ビル、など。

設計の仕事をしてる理由、はじめた理由
幼い頃から、テレビの特撮に出てくる建物やロボットの基地などが大好きでした。ああいったモニュメント的な要素をもつ建物にもともと興味があったのです。その後、スペインの建築家で「グエル邸」や「カサ・ミラ」で有名な、アントニオ・ガウディ氏や、アメリカの建築家で、旧帝国ホテルの設計などを手がけたフランク・ロイド・ライト氏に影響されました。学生の時に進路を決める際も迷わず建築方面を目指しましたし、私にとって建築の仕事につくということは、ごく自然の流れだったのです。

休日のすごしかた
古賀海岸の散歩。行きつけの喫茶店で読書。

趣味
マイナー映画鑑賞、メジャースポーツ観戦、美術鑑賞、旅行など。
 
過去手がけた住宅のご紹介
住宅 Nの家
構造規模/ 木造軸組1階建て
専有面積/130u
家族構成/夫婦2名(60代)
入居者のこだわりや要望
バリアフリー
椅子がおけるデッキでゆっくりしたい
動線を考えたすまい
広い廊下
収納スペースを多くとる
奥様が洋裁をするのでそのスペース
梁は見えたほうがいい

今回紹介するのは、60代のご夫婦が永住を前提につくられた住宅です。立地としては山の近くで、湿気が多いということがありました。適度に樹木が生育していたのでそれも活かして、緑が豊かなすまいにしました。永住ということで、身体が不自由になっても生活しやすいよう工夫しています。

>> 「間取り図」

高齢者への配慮
年齢が高齢になってもすみやすいよう、室内のバリアフリーは当然として、外から玄関までは緩やかなスロープを配しました。例えば、将来車椅子の生活になっても支障が少なくてすむように、です。幅もゆったりとっています。また、スロープを通ってデッキから直接リビング・ダイニングへはいることも可能です。


デッキ
デッキは玄関前からキッチン、リビング、ダイニング
そばに、一続きでつくりました。デッキ幅は180cmと、椅子も十分おけるようにしました。
窓はすべて履き出しのものを採用しましたので、採光も取れる上、外部への出入りがスムーズにでき、とても便利です。また、デッキが床の続きのように見えるため、室内を広く感じることができます。

「リビングから外を見た写真」


移動しやすい間取り
室内は回遊性を持たせた間取りにしました。納戸を中心に、水周りを外縁に配したことで、デッドスペースをなくすように設計しました。
また、通路には出っ張りが出ないように、移動もスムーズにできます。例えばトイレですが、寝室側と洗面室側どちらからでも入れるなど、入り口を2箇所設けることによって効率よく生活できる様、配慮しました。通路を直線にとっていますので、移動もスムーズです。
そして、このすまいの建具はほとんど引き戸を採用しています。必要のないときは開け放しをしていても邪魔にならず、開け閉めが楽な引き戸はとても都合がよかったのです。


廊下
廊下は広くとりました。車椅子がゆっくり通ることができる幅、そしてその廊下に面して収納も設けています。廊下というよりは生活するうえでのゆとりを感じられる空間になるよう設計しました。

「玄関から一直線に通った廊下」


収納
お道具をたくさんお持ちだったのでたくさんの収納スペースをつくりました。
寝室に押入を3箇所、納戸を2箇所、廊下の棚、などはもちろんですが、空間を広く使いたいという要望も平行してありましたので、上部収納も配しています。
和室の階下に10畳ほどの倉庫を。ここにはご主人が庭仕事などされるときの大きな道具などが収納できます。

奥様が洋裁をされるそうで、玄関近くに趣味室をつくりました。
物がふえても十分納まるように空間をとっています。


設計で苦労した所や工夫した点など
立地が山のそばで、多湿ですので室内の空気が循環するように工夫しました。具体的にいうと、外気孔を設け、換気扇をつけています。ほとんどの部屋や納戸の上部を空けていますが、それを空気が滞り、湿気がたまるを防ぐためです。壁のクロスは湿気を吸うクロスを採用しています。上部を空けると、通風や採光をとれるということの他に、空間を広く感じることができます。
この住居の梁はベイ松、柱は杉を使っています。引き戸を含めて、木の建具はそったりして形が変わるので、2、3年で直しながら住みます。木造の住宅はそうして家に手を入れながら暮らすのです。



「梁がみえる寝室」

この住宅は、一見、なんてことない様に見えるかもしれません。ですが、施主の要望をいかし、土地の特性を考え、いかに施主が住みやすかを綿密に計算して設計したすまいなのです。

 
住宅にかかわる仕事について
コーポラティブハウスの住戸設計をするにあたって
コーポラティブハウスの話題は、東京や大阪などでは最近良く聞きます。福岡ではなかなか浸透が遅いようで、私は今回の取り組みが福岡ではじめての本格的な試みだととらえています。そんな中、今回の西新コーポラティブハウスに興味を示し、参加されるみなさんはとても前向きな方々の集まりだと思います。私は、「そういった方々といっしょにすまいをつくりたい、みなさんのすまいへの想いや夢を設計面でかなえてあげたい」と思い、設計者として参加しました。

戸建てと集合住宅の違い
集合住宅は集まってすむ住宅なので、自由設計ができるといえど、入り口の場所や天井高など、制約されるところがあります。また、枠内の空間をどう分割していくかで、間取りを決めていくことも特徴だと思います。私は「コーポラティブハウス」を、そういった協調性と個性との間にある新しいマンションの形式だととらえています。

理想のすまいとは
住居は、すまう人によって違いますし、実際住んでみないとわからないため、答えはないと思います。あえて言えば、家族構成や様式が変わっても住まい方に対応していけるようなすまいはいいと思いますね。長く使える建物はいいものだということです。

いいすまいを得るためのアドバイス
設計者とよく対話することが大切です。
自分は、「設計とは対話である」と考えています。くり返し対話を重ねることによって自分の住宅への重要な部分が明確になってくるからです。

日々の生活でのことになりますが、ものを買うときは、こだわりをもって購入してほしいと思います。人は、こだわりをもって手に入れたものは大切にするのです。それは生活をさらによくします。また、こだわりをもとうとすると、いろんな身の回りの細かいところに気が付くようになります。そして日ごろから目を養い、自分のすまいをつくるときにおおいに活かしてください。自分のすまいを大切にすることは、ひいては住んでいる地域へ、
いい影響をおよぼすと私は考えています。

 

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