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住戸設計者インタビュー 嶋 誠司さん

コーポラティブハウスの魅力的なメリットのひとつに「自由設計」があげられます。一戸ごとに担当の設計者がつき、組合員(入居者)の要望をとりいれ、理想のすまいをつくっていくのです。
こちらでは住戸設計者のご紹介をすると共に、過去の住宅設計において、施主の要望をどう活かしたか、実例をご案内します。
 
住戸設計者 PROFILE #04
嶋 誠司さん
SEIJI TAKASHIMA

高嶋設計室一級建築士事務所
[一級建築士]

主な設計プロフィール
共同住宅、店舗の企画・設計・監理の他に、再開発プロジェクトや街づくりに従事してきました。最近はフリープラン住戸の設計に多く関わっています。

設計の仕事をしてる理由、はじめた理由
中学校の頃、美術の授業でスペインの建築家、アントニオ・ガウディの設計した建物の写真を見て衝撃を受けました。
福岡市中央区天神にある福岡銀行本店ができた当初、その外観を見たときも、建築物というのは、その建物のオーナーだけでなく、その周辺社会全体に対して影響するということをとても感じました。
私は、建築とは、「人と深くかかわるデザイン」だと思っています。人に対して、社会に対して、デザインを提案していきたく、設計の仕事につくことを決めました。

休日のすごしかた
ご近所での自治会の活動に奔放しています。

趣味
なかなかいけませんが旅行、大昔にバンドでギター、最近ではRC模型など。
 
過去手がけた住宅のご紹介
住宅 再開発ビル/優良建築物等整備事業
構造規模/
  SRC造 地上14階建 店舗13店舗+住戸58戸
代表住宅の専有面積/180u

間取り/6LDK
玄関+浴室+洗面所+キッチン+リビング+ダイニング+主寝室+仏間+居室3+応接室
     
家族構成/
夫婦(50代)+子(女:20代)+子(女:10代)+子(男:10代)
入居者のこだわりや要望
奥様の生活するゾーンを効率よく
家事を効率よくしたい
キッチン周りのこだわり(設備や使い勝手など)
家具が多い、実測して収まりよく設計に組み入れること
バリアフリー
お子様が独立した後の居室スペースの活用

この住宅は再開発ビル内の地権者のすまいです。他にも8戸ほどの地権者住宅を手がけましたが、中でも「2住戸を連結する」このオーナーの住宅は、面積的にも最大のもので、設備の集約や空間の分節等の試みができたことが、現在手掛けているタワーマンションのフリープランの実務にも活かされていると思います。


室内のゾーンわけ
家族構成はご夫婦とお子さんが3人、年齢も20代と10代ということで各自居室もいります。住居を大きくゾーンわけすると、家族みんなが集う「パブリックゾーン」と各個人の個室が並ぶ「プライベートゾーン」に二分できます。
ただし、主寝室を含み、キッチン、洗面室、家事室は膝に不安を抱えた奥様の希望により近くに集約し、効率的な家事が可能なように計画しました。


室内イメージ
こちらのご家族の特徴として、もともと蔵を所有されていたこともあり、たくさんの家具・調度品お持ちでした。それら一つ一つが歴史を物語る強い個性をもった物ばかりでしたので、それらが引立つように、内装はカバ材の白いフローリング×白木調の建具といったシンプルな色合いにつとめました。一部、造り付けの家具は桜材を使用し、時間とともに深みが出る、柔らかい木のイメージをすまいの要所に点在させ、住宅全体のイメージに統一感を持たせました。


キッチン
パブリックゾーンの中心にあるキッチンは、奥様の強い要望により、メーカーを変更し対応しました。このようなケースはコーポラティブ住宅ではありがちですが、通常の分譲マンションではアフターの保証を考えてタブー視されています。嫌がる現場所長との交渉も、良い経験だったと今でこそ思えますが、当時は大変な思いをしました。
また、一般にキッチンの変更は追加工事費倍増の大きな原因であり、やはりここでも例外ではありませんでした。
結果的にキッチンは最優先の要望となり、予算に合わせて他の要望を見直し、金額の折り合いをつけました。


子供室の利用
3人のお子さんのお部屋の利用ですが、壁を可動式にし、独立後はそれを移動させて、空間をフレキシブルに利用できるように提案しました。将来的にはお孫さんたちが集い賑わうとき、セカンドリビングとして使えるような一つの大部屋に変化できる。そんな工夫を盛り込んでいます。



設計で苦労した所や工夫した点など
やはり苦労した点は、住宅設備の位置にある程度の制限がつくことです。通常の分譲マンションでのプラン変更でしたので、床の配管スペースに限界があり、排水竪管までの距離や、トイレの設置位置といった制限が大きくプランの骨格を左右します。
また、14階建で戸境壁が耐震壁であった為に、2住戸の連結とはいうものの一体的な間取りが不可能で、結果的に2つのゾーンに分けざるえなっかたというのが正直なところです。
もちろん、キッチンの位置などを、より効果的な位置へ配置することも可能でしたが、その場合は床に段差を設けなければなりませんでした。前述のように膝に不安を抱えた奥様のことを優先し、考えられる最良の場所に案を纏めてゆくことに要点をおきました。結果的に奥様には喜んでいただきました。

 
住宅にかかわる仕事について
コーポラティブハウスの住戸設計をするにあたって
通常の分譲マンションの設計などは住み手の顔が見えません。住む人と直接接して設計するということは、相手がどんな人でどんな住み方されているのかがわかります。
すまい手の顔が見える、自分が住み手のためにいろいろ提案できる、一緒につくりあげていくことができる、そんなコーポラティブハウスだからこそ、魅力を感じ、この仕事を引き受けました。

自由設計、戸建てと集合住宅の違い
ライフスタイルの違う人が集まって住む集合住宅とは、人が、同じ時代の風潮や価値観などを共有し、分かち合うことだと思います。ある意味、同じ流れのなかで生活を共にするわけです。その中での自由設計とは、個人のライフスタイルの変化にあわせたもの、つまり自己表現だと考えています。

理想のすまいとは
今は、1つの住宅に一生住むことがあまりない時代です。その中で、時代のトレンドやニーズにあった一定時間住むものとしての「すまい」と、手を入れることによって形を変えることができて、一生愛していける「すまい」、どちらも理想のすまいのかたちだと思います。

いいすまいを得るためのアドバイス
長い人生の予定を考え、住み方を想定した上ですまいを考えることは大切です。例えば「結婚→子育て→独立」という3つのステージにおいてのすまい方などです。
部屋数を確保することも大切ですが、柔軟な空間の使い方も魅力がありますよ。また、家具の選択は重要です。家具と建物は一体だと考えています。家具は補助してくれるものではなく、住み手の人生のステージが変わるたびに、すまいとのバランスをとるものとして考えるといいと思います。そして、家具を置くスペースとおかないスペースのメリハリをつけることなども必要だと思います。

設計者とは
クライアントが思っているものを形にするサポーターだと思います。

予算と要望の折り合い
クライアントの100%の要望を図面化してゆくと、必ず予算は青天井になってしまいます。
しかし、要望を出さないまま現場が進むことは、後々の未練となって、必ず大きな後悔(施主にとっても我々にとっても施工者にとっても・・)になり、良い結果は出ませんので「もうありませんか??」と何度も問いかけながら、イメージを膨らませていきます。しかし、最終的には施工者から提出された金額を睨みながら、一つ一つの要望を取捨選択しなければなりませんが、ここで初めてイメージが現実へと転化されていくように思います。

また、もう一つ申し上げると、これらの変更工事に際し、各住戸ごとの単独の見積書が無いと施工者との折衝なんて有り得ません。スタートの金額がこれで、要望の結果がこれ、と言ったように増減見積りがガラス張りでなくてはクライアントも当然納得しませんので、そういう意味でもコーポラティブのやり方は誠実だと思います。

 

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